こうかん文庫①泣き虫しょったんの奇跡
まずは「こうかん文庫とは何ぞや?」っていうところから。
説明しよう!*1
こうかん文庫とは、コワスペ日暮里で行われている書籍を物々交換する仕組み、およびその蔵書のことである。
基本ルールは1つだけ。
あなたが誰かに読んでほしいと強く思える本を、こうかん文庫の1冊と交換する。
なんでこんな仕組みを考えたかっていうと、たくさん読んでいても、実際にいい本に出合うのってなかなか難しいよなっていうのが実感としてありまして。
総務省の統計によると年間7~8万冊くらいの新刊書籍が出版されているという。僕はまぁまぁ読む方だと思いますが、せいぜい年間平均100冊前後です。アンテナ広げて情報収集してるつもりでも、当たりの本と出合う確率はけっこう低いです。
だけど直接の知り合いに「この本ほんとうにすっごくいいよ!」って紹介される本は、読んでみて"当たり"のことが多いなって。
じゃあその「ほんとうにすっごくいい!」って思う本だけ自然に流入する仕組みがあればいいじゃんって思った。
誰かの「ほんとうにすっごくいい!」本が、別の誰かの「ほんとうにすっごくいい!」本と1冊ずつ交換されていけば、延々と「ほんとうにすっごくいい!」本が流通し続けますよね。たぶん。
「レコメンド募ってから自分で買えばもっと手っ取り早いんじゃない?」って思うかもしれません。でもこれは実際に自分の足で運んでくるからこそいいのです。そして思いがけない本と出合ってこうかんして帰る。
そんなわけで始めました。こうかん文庫。
基本ルールは上述の1つだけですが、サブルールもいくつかあります。
・こうかんした本は、なるべく長期保有しないで、誰かにあげるか、こうかん文庫にまた持ってきて他の本とこうかんする
・上下巻などはワンセットで1冊として数える(※坂の上の雲全八巻とか三国志全60巻とかは持ち運びに適さないのでなし)
・傍線、書き込み、ご自身の署名、見知らぬ誰かへのメッセージなどの書き加え自由。
いずれは専用ウェブサイトをつくって、それぞれの本のこうかん来歴がネットですべて見られるようにしようと思っていますが、当面すぐ必要でもないので作業が進んでいません。*2
今現在のラインナップがこちら
実用/ビジネス/ノンフィクション系と文学/エンタメ系を半々くらいにして15冊。
多少入れ替えるかもしれませんが、個々の本の交換されやすさとの兼ね合いで、しばらくはほとんど増やさないと思います。
こうかん文庫の栄えある利用者第一号はのりんごさん!
さて、こちらの「泣き虫しょったんの奇跡」瀬川晶司著の感想を書きます。*3
ざっくりとあらすじからいうと、
小学校高学年で将棋と出会った少年が、年齢規制の26歳までにプロ入りできず一度諦め、数年後アマチュアから再起して、その実力が将棋連盟に認められたことによって新設されたプロ編入試験にて35歳でプロになる。
というお話。
タイトルには「奇跡」とあるけれども、本質的には人との出会いのストーリーだと読める。
たくさんの人との出会いがあり、その人たちに支えられることで、それまでの将棋界ではありえなかったアマからのプロ編入*4を成し遂げます。
なかでも一番の出会いは序盤、小学校5年生の時の担任、苅間澤先生とのエピソードです。
本書の苅間澤先生の発言には名言と呼べるものがいくつかあるのでまず抜粋する。
「私はあなたたちに、人が悲しいときに寄り添ってあげる友だちよりも、その人が喜んでいるときに、よかったねと一緒に喜んであげられる友だちになってほしいな」
「セガショー*5が将棋が強いのは、セガショーが将棋に熱中しているからよね。~中略~ どんなことでもいいから、それに熱中して、上手になったことがある人は、いつか必ずそのことが役に立つ日が来ます。そういう人はまちがいなく、幸せをつかむことができます」
「だからね、セガショー。君はそのままでいいの。いまのままで十分、だいじょうぶよ」
「なんとかしなさい、セガショー」
なんといっても白眉は著者がプロ編入試験の第一局で敗れ、打ちひしがれて目の前が真っ暗になった時に届いた一葉のハガキ。
「だいじょうぶ。きっとよい道が拓かれます」
このシーンは前半のクライマックスといえる重要な箇所で思わず泣きそうになる*6。ぜひ読んでみてほしい。
セガショーが国語の時間に自分で書いた詩を朗読した時、
「なんてすてきな詩なの、セガショー! 君って、詩の才能があるのね!」
それまで作文が得意ではなかったという著者が、以降、周囲から作文で褒められるようになったという。まさにこの苅間澤先生の言葉によって才能が開花した瞬間だったろう。
この時に伸ばされた才能ゆえだろう。本書を読んでいて、ときどきハッとする表現に出合う。
なかでも一番に印象に残った一文だけ引用する。
えーっ、という子供たちの悲鳴で、満開の桜の花びらが何枚か落ちたように見えた。
引きアングルの映像がパッと思い浮かぶ、どこかユーモラスで面白みのあるフレーズだ。
苅間澤先生のエピソードだけで結構書いてしまったので、あとは読んでのお楽しみということにしよう。
僕にも26~30歳まで挫折していた時代があったため、自身と重なる部分も多かった。
前回のブログ記事でそのようなことを書いたのもあって、のりんごさんはこの本をこうかんしてくれたのだと思う。
のりんごありがとう!
さあ、
「泣き虫しょったんの奇跡」があなたにこうかんされるのを待っているよ!
あなたの1冊を持って、コワスペ日暮里にいらしてください(^^)/